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「お前さぁ、凄いハマってんじゃん」
「何に」
「何って決まってるだろ。純ちゃんの事だよ」
「………」
関を含めた、高校の同級生数人で飲んだ金曜日の夜。
翌日の土曜日が仕事のヤツらも何人かいたから、自然と終電間際に解散になった。
俺も翌日は純と朝から出掛ける約束をしていたから、正直終電前に帰宅出来る事にほっとしていた。
これで朝までコースだったら、ろくにデートも楽しめなかったに違いない。
……そう思っていたのに。
『梶真、飲み足りないからお前んちで飲み直しね』
関は一度飲み始めたらグダグダとひたすら飲み続けていられるタイプ。
酒は格段に俺より強い。
そして酒に強いからか、飲んでもそこまでテンションは変わらない。
どれだけ飲んでも、泥酔する事はそんなにないらしい。
だけどコイツは酒を飲むと、いつもよりも鋭さが三割は増す気がする。
「普通さぁ、彼女の父親が自分の上司とか無理じゃない?まぁ普通の父親ならともかくさ。部長の過保護っぷり、凄いじゃん」
こんな偶然、あるわけないって思った。
桐谷部長が彼女の父親として目の前に現れた瞬間、正直自分でも何が起きているのかすぐには理解出来なかった。
まさか、彼女の父親が自分の上司だなんて。
そんな事、予想出来るヤツの方が少ないに決まってる。
「……まぁ、過保護なのは結構大変だけど。でも、部長があれだけ過保護になるのもある意味わかる気がするっていうか」
「あー、確かに。純ちゃんみたいにピュアで可愛い子が自分の娘だったら俺も過保護になるかも」
そう。
別に、自分の彼女だからひいき目に見ているわけじゃなく。
客観的に見て、思う事。
あんなにも純粋で汚れていない子が、もしも自分の娘だとしたら。
……俺も、部長のようになる可能性は十分にある。
「何かさぁ、純ちゃんって天使みたいだよね」
「……天使って」
軽く呆れながら吐き捨てるように呟いてみたけれど、その表現はあながち間違ってはいない。
けど、関のように思った事を簡単には口に出せない自分。
この性格で損をしている事は多々あるんだろうけど、なかなか長年に渡って染み付いたこのひねくれた性格は、変えられずにいた。
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