素直な彼女の、一途な思惑

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「入学式、どうでした?」 「………」 「やっぱり、嬉しいものですか。娘の入学式とか」 部長はとにかく純の話を俺とはしたくないのか、聞こえていないフリをしてただひたすら自分の部署の方へと歩いていく。 仕事の話なら、こんな風に避けるような事はしないくせに。 純の話をしようとすると、この人はいつもこうだ。 部長からしても、大事に育ててきた娘の彼氏が自分の部下だなんて相当気まずいだろうとは思う。 でもやっぱり、こうやってずっと避け続けられるのも、何か癪だ。 「部長。またチェスで勝負しませんか?」 敢えて挑発的にそう言うと、それまで俺を完全に無視していた部長はくるりと俺の方を振り向いた。 「……チェスで勝負ならもうやらないぞ。お前の作戦はもう読めてるんだからな」 「作戦?」 「俺としたことが、すっかり忘れてたよ。梶真は関と親しいんだよな確か」 どうやら俺が関に特訓を申し込んだ事は、部長にバレてしまっていたらしい。
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