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それから一時間後。
『もうすぐ着く』のメッセージを受けて駅の改札口へ向かうと、ちょうど満面の笑みを浮かべた彼女が改札口を走って通り抜けてきた。
「棗くん!お待たせ!」
「だから…走るなって言ってんだろいっつも」
「えへへ。棗くんの顔見たら、つい走っちゃった」
まるでこの一週間ケンカしていた事なんて、なかったかのように。
彼女はいつも通り、俺を真っ直ぐに見上げて無邪気に笑った。
……ヤバイ、何かいつもより更に可愛く見える。
「棗くん?」
「……行こうか」
もうほとんど癖で彼女の目の前にスッと手を差し出すと、彼女も自然とその手を繋いだ。
そして繋いでいない方の手には、大きめの紙袋を持っている事に気付いた。
この袋、見たことある。
「それもしかして、ケーキ?」
「あ…うん、あのね、家の近くのケーキ屋でフルーツタルト買ってきたの」
「そんな気遣わなくていいのに。それに行っても本当誰もいないから」
「うん、でも一応。手土産なしでお邪魔するなんて失礼かなと思って」
……多分、母親からの助言だな。
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