ラインを越える、一歩手前-2

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「え、帰ってきてるって、もしかして……」 「ごめん。車あるから、多分帰ってきてると思う」 何なんだよ、このタイミングの悪さは。 確かにどこに行ってくるとも、何時に帰ってくるとも何も言ってなかったけど。 だからって、こんなタイミングで帰ってこなくても。 「……またにする?」 「え…」 「さすがにいきなりうちの親に会うなんて、あんたも気まずいだろ」 両親はどっちも割と冷静というか淡白な人達だから、彼女を連れて行ったところで何か失礼な事を彼女に言うような事はしないと思う。 今まで恋人なんて家に連れて来なかった俺が突然こんな若い子を連れてきたら、驚く事は間違いないだろうけど。 ……でも今は、彼女に気まずい思いをさせたくない。 自分の身勝手な嫉妬で、この一週間悲しませてしまったから。 もう、なるべく心に負担をかけさせたくない。 という、俺の些細な気遣いは。 どうやら、不要だったらしい。 「気まずくないよ!大丈夫!行きます!」 「……え、気まずくないの?」 「き、緊張するけど…でも、こんな機会滅多にないもん!……わんちゃん達にも、もちろん会いたいけど…棗くんのご両親にも会ってみたいよ。会うのが気まずいなんて、私は絶対思わないよ」 「………」 俺、この子を好きになって良かった。 心から、そう思った。
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