ラインを越える、一歩手前-2

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「……あんたがいいならいいけど。じゃあ、行く?」 「うん!…あ、待って!ちょっとここで練習させて」 「練習?何の」 「自己紹介の練習だよ!えっと、初めまして、棗くんとお付き合いさせて頂いています、あ、やっぱり棗くんじゃなくて棗さんの方がいいのかな」 大真面目な顔で、本気で自己紹介の練習を始めるその様子がおかしくて俺は豪快に吹き出してしまった。 「そんなのどっちでもいいよ」 「もう…棗くん、笑ってないでちゃんと見ててよぉー……」 練習なんか必要ないのに。 だってこの子なら、自己紹介でどれだけ噛み倒そうが失敗しようが、気に入られるに決まってるから。 「あんたなら大丈夫だって。ほら、行くよ」 緊張した表情の彼女の手を強引に引っ張り、玄関のインターフォンを鳴らした。 すると玄関の奥からドタドタと足音が近付いてきて、勢いよく扉が開いた。 「ちょっと棗!何であんた犬三匹置いて家出てってんの!?お母さん達に留守番頼まれてたくせに!」 扉を開けて顔を覗かせたのは。   父でもなく、母でもなく。 何故か、関西にいるはずの姉の幸だった。
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