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病院の毎月の診察では、特に異常は見受けられなかった。
だから、何ともないはずだった。
いつものように一日を笑って過ごせるんだと思っていた。
でも。
何の前触れもなく、締め付けられるような胸の痛みが襲いかかってきた瞬間。
『痛い』よりも、『怖い』が先に思考を埋め尽くした。
棗くんと出会う前は、未来に希望なんかなかったから。
自分の人生を、諦めていたから。
だから、そこまでの恐怖を感じた事はなかった。
私が死んだら、パパとママはきっと悲しむ。
冬汰も未央も、きっと泣いてくれると思う。
だけど、悲しむ反面、解放される部分もあるんじゃないかって。
そんな風に卑屈になってしまう自分が嫌だった。
棗くんと出会ってからは、全てが変わった。
見える世界も。
聞こえる音も。
物事の捉え方も。
生きる事への執着も。
死への恐怖も。
何もかもが変わった。
「……棗くん」
「ん?」
私を見て、少しだけ目を細める。
出会った頃よりも棗くんは、表情が柔らかくなった。
この人から離れたくないって。
切に願うんだ。
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