第一話 穏やかな人

4/7
788人が本棚に入れています
本棚に追加
/113ページ
 今日は外が雪だし、いつもより熱めの温度設定になってる熱燗。  大きな背中をおじいちゃんみたいにこじんまりと丸め、たこ刺しをお箸で掴むとパクッと口に放り込む。モグモグして、鼻を二度程啜り上げてはまた満足そうにモグモグ。  男の俺から見ても「いい顔」と思える整った顔をしているのに、大間さんには気取ったところが全くない。いつも自然体と言うか、緩いと言うか。のんびりした空気を漂わせている人。そんな大間さんが幸せそうに食べているのを見ていると、こっちの気持ちまで和んでしまう。  ホッケを焼きながら観察していると、大間さんはフッと箸を止めて、ちょっとだけションボリした顔になった。  ん? どした? お腹減って死にそうとか?  違うか。どこか心ここに在らず。って表情。何かを思い出してる……のかな?  ホッケが焼きあがったのに合わせて、ご飯を気持ち多めにお茶碗に装う。大きなお盆にホッケと、ご飯を乗せて厨房から出た。 「はい。お待たせ~。ホッケとご飯ねー」  大間さんはいつも、お酒もご飯も一度に注文する。メインのおかずと一緒にご飯を出すのも大間さんの希望なんだ。普通、ご飯って最後なんだけどね。 「おほっ! うっまそぉ~。いいの仕入れてんねぇ、これデカくない?」  目の前のホッケを見るなり、さっきの表情とは一変して、ウキウキした口調になる。ホッとして俺も返した。 「大間さんの為に一番大きいの選びました」 「え~、上手いねぇ~」 「ホントだってばー」  大間さんは「またまた~」とケラケラ笑って俺をあしらう。  営業トークだと思ってるのかな? ま、いいけどさ。
/113ページ

最初のコメントを投稿しよう!