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「鍋関係は全部好きです。特にポン酢でいただくのは」
「そっか、智聡くんはポン酢が好きだもんね」
「好きです。よく家でも子供の頃から食べてました。安くて栄養豊富で庶民の味方ですよね! あ、これは豆腐のことです」
『湯豆腐屋』と書かれたお店は、古い民家をそのまま改築したみたいなレトロな建物だった。ねずみ色の瓦の屋根に、格子の窓。窓から続く格子の玄関。その前にある年季が入った風貌の暖簾。茶色の暖簾には、確かに白字で「湯豆腐」と書いてあった。
「じゃ、お参り行きます? こっちがメインになっちゃいそうだし」
「そうだね。先にお参り済ませちゃおう」
「うんうん」
来た道を戻り、駐車場を通り過ぎて、『参道こちら』の矢印の方向へ二人で歩いた。五十メートルほど行くと小さな鳥居と石段。大間さんは鳥居を見上げちょこっと頭を下げた。鳥居をくぐり、正面石段を登ると神社はあった。
神社はいい具合に参拝客もまばら。近所の人なのか、ラフな格好のおじいさんがプラプラ歩いてる。大間さんがスッと道を外れ水場へ向かう。突っ立てる俺に気付いたのか、振り返り「おいでおいで」と指をペコペコ曲げ手招きした。
「手ぇ洗おう」
「はい」
大間さんは右手で柄杓を持つと、竹筒からちょろちょろと流れてる水を掬い左手を洗った。持ち替えて右手を洗う。大間さんのを真似して俺も同じ様に手を洗った。これで終わりかと思ったら、更にまた持ち替えて、めんどくさい事に左手に柄杓の中の水を受け、口元へ持っていく。
歯磨きの時みたいにブクブクしない。少し口に水を含んで、そのまま足元の溝部分に静かに吐き出す大間さん。それも真似る。もう一度左手に水をかけ流し柄杓を縦に立て、残りの水を流した。柄杓置き場に伏せて戻す。
「へー。そうやってするんだ」
「みたいだね。俺も見よう見まね」
大間さんは「ふふ」と笑って、ポケットからハンカチを取り出し差し出した。
「あ、いい。自然乾燥で」
「使いな。あかぎれになっちゃうと痛いから」
「……はーい」
ハンカチを受け取りパンパンとテキトーに拭いて大間さんへ返した。
「先に使ってごめんなさい」
「いいからちゃんと拭きなさい」
お父さんみたい。
俺はハンカチを広げて両手をしっかり拭き、両手で広げたまま大間さんへ渡した。
「はい。ちゃんと拭いたよ」
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