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俺はメニューを覗き込み言った。
「うーんとね。蔵香りかな? それか、厳選辛口吉乃川。この二本、地酒大賞ってので、熱燗にして美味しいお酒一位とったのなんですって」
「一位! すげぇな。蔵香りってのはどんな感じなの?」
「繊細な香気の大吟醸酒に、山廃特有の芳醇さが加わった蔵香り。……って書いてありますけど、よく分かりません。飲んだことないから」
「お酒はあんまり飲まないの?」
「ううん。ビールとかチューハイとか? そういうのなら大丈夫なんですけど、日本酒がどうも……」
「そうかぁ~、じゃぁ、せっかくだし。君が一番好きで飲んでるのにするかな」
意外な言葉。
だって寒いし、熱燗の方が身体あったまると思うよ?
「一番ですか? うーん……ビールかなぁ。でも寒くなっちゃうよ?」
「送ってくれるんでしょ?」
そう言うとちょっと眠そうな目で俺に微笑みかけてきた。
「うん。 じゃあ、ビンでいい?」
「うん。頼むわ。あと漬物も」
「はい。ありがとうございます」
結局大間さんは、そこからの一時間を漬物をツマミにビールをチビチビ飲みながら待っててくれた。
やっと十一時の十分前になった。皿洗いを終え、お勘定を済ませようと大間さんを見る。大間さんはカウンターに肘を突き、テレビの方を観ていた。目がいつもに増して眠そう。もう夢の入口って感じ。
疲れてるのに……余計な事言わなきゃ良かったかな。
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