第二話 遊び

2/7
787人が本棚に入れています
本棚に追加
/113ページ
 俺はメニューを覗き込み言った。 「うーんとね。蔵香りかな? それか、厳選辛口吉乃川。この二本、地酒大賞ってので、熱燗にして美味しいお酒一位とったのなんですって」 「一位! すげぇな。蔵香りってのはどんな感じなの?」 「繊細な香気の大吟醸酒に、山廃特有の芳醇さが加わった蔵香り。……って書いてありますけど、よく分かりません。飲んだことないから」 「お酒はあんまり飲まないの?」 「ううん。ビールとかチューハイとか? そういうのなら大丈夫なんですけど、日本酒がどうも……」 「そうかぁ~、じゃぁ、せっかくだし。君が一番好きで飲んでるのにするかな」  意外な言葉。  だって寒いし、熱燗の方が身体あったまると思うよ? 「一番ですか? うーん……ビールかなぁ。でも寒くなっちゃうよ?」 「送ってくれるんでしょ?」  そう言うとちょっと眠そうな目で俺に微笑みかけてきた。 「うん。 じゃあ、ビンでいい?」 「うん。頼むわ。あと漬物も」 「はい。ありがとうございます」  結局大間さんは、そこからの一時間を漬物をツマミにビールをチビチビ飲みながら待っててくれた。  やっと十一時の十分前になった。皿洗いを終え、お勘定を済ませようと大間さんを見る。大間さんはカウンターに肘を突き、テレビの方を観ていた。目がいつもに増して眠そう。もう夢の入口って感じ。  疲れてるのに……余計な事言わなきゃ良かったかな。
/113ページ

最初のコメントを投稿しよう!