第二話 遊び

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「おうおう、二つ先の信号を超えたコンビニ前のアパート」 「了解」  左側にコンビニの背の高い看板が直ぐに目に入った。右にアパート。 「コンビニ寄るの?」 「うん、そこでいいよ。ありがとう」 「オッケー」  左へウインカーを出してコンビニへ入り、車を停めて大間さんへお礼を言った。 「ドライブ楽しかったです。眠いのにつきあってくれてありがとう」 「ううん。俺も久しぶりに楽しかったよ。仕事帰りに遠回りさせて悪かったね」 「全然大丈夫だよ? じゃあ、今度はもう少し遠出のドライブ行きましょうね?」  さっきの、車の中で一人待っていた大間さんの寂しそうな表情がチラついて、気づいたらそう誘っていた。 「いいねぇ~。今日はありがとう。じゃぁ、気をつけてお帰り」 「篤こそ、階段で足滑らせないように気をつけてね」 「ハハハ、うん。気をつけるよ。白川君」  俺はビックリして「え?」と思わず大きな声を出してしまった。 「なんで知ってるの? てか、知ってたの?」  さっきのはなんだったの?   大間さんはニッコリ微笑んだだけだった。  シートベルトを外し足元の鞄を持って車を降りると、腰をかがめ窓から顔を覗かせ手を振る。俺は窓を下げ、のほほんとした表情の大間さんを見た。  何故か頬が熱い。車内が暗くて良かった。 「おやすみ。チサト君」 「お、おやすみなさい」  さっきは白川君と呼んだのに、次は名前で呼ぶ。  知ってるのに知らないフリしたり、ワザワザ名前で呼んでくるなんて、癒し系だと思ってた大間さんが突然遊び上手な人に見えて、変にドキドキする。  大間さんはコンビニへ入ろうとしないで、自動ドアの横で俺を見ていた。寒そうにコートのポケットに手を突っ込んで首をすくめてる。  見送ってくれるんだ。  俺は車をバックさせて頭を道路へ向けた。チラと大間さんを見ると、顔の横で可愛らしく手をフリフリしてる。俺は手を上げながら左右を確認して、コンビニから出た。  大間さんはミラーの中でずっと手を振っていた。
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