第三話 水餃子

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「いらっしゃいませー」  この日の大間さんはいつもと様子が違ってた。  店に入って来ても、俺を見て手を上げない。いつものフニャ顔で微笑まない。重い影でも背負ってるみたいに背中を丸めてた。  無表情だけど酷く悲しそうにも見えた。  会社で何か嫌な事でもあったのかな? 嫌な事があったけど、ここに来たって事は普通に話し掛けていいってことだよね?  俺はそう判断していつものように接客した。でも大間さんはいつもの様に晩ご飯を食べに来たわけじゃなかった。  カウンターに両肘を突いて、ため息を吐きながら頭を支えてた大間さんは、おしぼりを渡した俺にお酒だけを注文した。付け出しと熱燗でずっとカウンターに居る。追加で注文するのもお酒ばかりだった。  そっとしておいて欲しい時もある……ってことか。  そう思いつつ、大間さんが心配で仕方なかった。  結局、俺が上がる十一時頃まで、大間さんはカウンターで浴びるようにお酒を飲み続けた。 飲もうが、何も変わっていない大間さん。 ずっと難しい顔のままだった。いつもはトロンと眠そうな顔してるくせに、あんなに飲んで眠くもなってないみたいで。  あと数分で十一時になる。って、タイミングで大間さんは席から立ち上がった。  無言でレジへ向かう大間さん。俺はお札を受け取り、お釣りを渡しながら話し掛けていいものか迷った。  今日も天気予報は雪マークだった。だから大間さんを送ってあげる事が出来る。でも……迷惑かな? 「……もう、上がりだよね……お腹、減ってない?」  てっきりそのままお金を財布へ戻し、店から出て行くと思ったのに、手の平へ小銭を置いた俺の手を、大間さんはそっと握ってきた。  その手が冷たくて、胸がギュッと鳴った。 「お腹空いたね。……もう上がるから、車で待ってて?」  小さく返事をすると、大間さんは口元だけで笑顔を作り店から出て行った。
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