第三話 水餃子

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「大将、お先ですー」  大間さんが店から出て行った途端、従業員用のロッカールームに飛び込む。エプロンと靴を脱いで慌ててコートを羽織り、バッグを掴みブーツに足を突っ込み裏口から出た。小走りで空き地へ急ぐ。フワフワした小さな雪がチラチラ降っていたけど眺めている余裕は無かった。  大間さんは車の傍で降る雪を見上げてた。  それに何故か、凄くホッとした。 「お待たせ。乗って?」 「うん」  エンジンを掛けて大間さんが助手席へ乗り込むのを見守る。大間さんがシートベルトをはめながら言った。 「お疲れ様。……何が食べたい? 奢るよ」 「え? マジ? 奢って貰えるの?」 「好きなとこ行っていいよ」  大間さんの声は重い空気を打ち消そうとするように明るめだった。だから俺もノリ良く調子を合わせて返事をした。 「えー? ホントに? じゃあ……お言葉に甘えて」  大間さんは俺を見てちょっとだけ微笑んだ。今日初めての笑顔。その笑顔にドライブに入れたギアをパーキングへ入れ直した。サイドブレーキを左足で踏む。 「篤、ちょっといい?」 「なんだい?」  大間さんの方へ上半身を捻り、両手を広げ大間さんを抱きしめた。ハグだけど。一瞬ギュッと腕に力を入れた。 「え? 智聡君?」 「ふふ。寒くて、手がかじかんでたから」  自分でも妙な言い訳だと思いつつ、大間さんを抱きしめたままふざけた声で囁いた。 「お、おお……」  戸惑ってるような大間さんの声。大間さんの腕が持ち上がった気配がした。ハグを返してくるのかと思ったけど、その手は持ち上がって止まり、また静かに下ろされた。  俺はゆっくり身体を離して大間さんへ微笑んだ。 「ありがとう。大間さんに体温分けて貰ったからちょっとあったかくなったよ」 「そっか……うん」  ふざけた言い方すれば良かったのに、やけに真面目な口調になってしまった。変に思われてないかな? って心配したけど、大間さんは俺の手を取り、一つにまとめると両手で覆ってゴシゴシと摩ってくれた。ビックリしていると、包んだ俺の両手を口元へ近づけて、「はーっ」と息を吹きかけ、また擦り合わせてくれる。  言い訳を真に受けている大間さんが、また妙に天然で可愛く思えた。  おかしいね。俺よりずっと年上なのに。  
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