prologue

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「…………」  今、その道を振り返ってもあなたの姿は見えないし、落ちた手袋も拾っては貰えない。  苦笑いするしかない。  こうなる事は分かっていたのに。それでもいいって、あの時は思ったのに。  もう忘れたと思ってたのに。  メットを外し、原付きを降りる。  片方の手袋を拾い、もう一度右のポケットへしまうと、左のポケットからアイポッドを取り出しイヤフォンを耳へ装着する。  流れてくるメロディ。  二人でカラオケに行ったね。  俺が好きだって言った曲を、あなたは照れながら歌ってくれた。  いつの間に練習してたのか……。  俺を喜ばせる為に、こっそり覚えて練習したの?  ドライブしていた時、ラジオから流れてきた歌。 「あ、これ好きなんだ」    会話の最中に何気なく言った一言をあなたが覚えていてくれたのが嬉しかった。  あなたはあの時、何も興味なさそうにしてた。  いつもの様に「そうなんだぁ」って相槌打って、いつもどおり変わらぬ微笑みを浮かべてた。  朝起きた時も、大学で授業を受けている時も、バイトの最中も、あなたの事なんて忘れてたのに。
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