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「いらっしゃいませー」
重い格子戸が開いた音に、大きな声で挨拶しながら振り返る。
あ、来た。
外は雪が降っているらしい。ネイビー色のトレンチコートの肩に積もった白い粉雪をハンカチでざっと払いながら背の高い男性が入ってきた。
大間さんだ。
コートを脱ぎながら、いつものカウンターの端っこの席へ座る。
「いらっしゃい。お疲れ様です」
口の前で手をすり合わせてる大間さんへアツアツのおしぼりをカウンター越しに渡した。
「お! どうも」
ペコリと頭を下げた大間さんは、おしぼりを手に取ると広げ、軽く上を向き顔面に乗せた。「あ~」と気持ち良さそうに呻いてる。
ふふ。可愛い。
「どうぞ」
カウンターの席は、外から入る風がもろに当たってしまう。
厨房から出て、大間さんの前へ付出しを置き、店の入口に設置してあるファンヒーターの設定温度を二度上げた。
大間さんは付出しの湯豆腐に嬉しそうに口をすぼめ「お~」と嬉しそうな笑顔。素直で豊かな表情は小学生みたいだ。さっそく箸を手に「いただきます」とは言ってないけど、ちょんと手を合わせ、湯豆腐を口に入れハフハフしてる。
「外、降ってきちゃいました?」
「うん、やけに冷えるな~って思ったらやっぱ降ったね。初雪だよ。あ、帰り気を付けなね。今日も原付?」
「十一月の初雪って久しぶりらしいねぇ。天気予報で降るかもって言ってたから、今日は母ちゃんの車借りてきたの。あ、十一時まで居るなら送ってってあげるよ?」
顔を少し寄せ、大間さんにだけ聞こえる声でこっそり言うと、大間さんはパッと顔を上げた。
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