第一話 穏やかな人

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「え? いいのぉ? それ、かなり助かるわ」 「うんうん。先週のお礼です」 「おれい?」 「先週、俺の手袋拾ってくれたでしょ? 俺ね、しょっちゅう片方無くしちゃうの。アレも買ったばっかだから、助かったの」  俺は本日のオススメメニューを大間さんへ差し出しながら無駄話を続けた。 「お……ぉ~、なんか悪いねぇ。拾っただけなのに」 「ふふふ。本日のオススメはホッケ一夜干しと、マナガツオの照り焼き。それからたこ刺し。あとは肉じゃがコロッケ……かな?」 「じゃぁ、ホッケとたこ刺しもらおっかな」 「はーい。ライスは小? 中?」 「腹減ってっからな……中で。あ、だし巻きも。それから熱燗ね」 「はーい。大将、ホッケ、たこ刺し、だし巻き入りましたー」 「あいよ!」  大将がだし巻き玉子を作ってる間に、俺はなるべく大きなホッケを選び網に乗せコンロの火をつけた。大間さんをチラッと見る。  さっきは嬉しそうに食べてた湯豆腐の付出し。それを箸を手にじーっと見つめてる。  ボーッとしてんなぁ。 「たこ刺し」 「あ、はい」  大将がお作りにしたたこ刺しと熱燗をカウンター越しに大間さんへ渡す。 「はい。たこ刺しと熱燗ね」 「おー、ありがとお」  ニコニコとそれを受け取り、お猪口に手酌する。  ホッケを焼いていると大間さんの視線を感じた。「追加オーダー?」と思って、チラと大間さんを見ると目が合った。俺に向かって「いただきます」とお猪口をちょっと持ち上げる。  俺がニッコリ頷くと、大間さんはクイとお猪口を傾けた。
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