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「ん…甘い」
「でも優介はこっちの方が好みかな」
後手にグラスを掴んだ健太は、それを一口含み、再び僕に口付ける。
触れた途端に流れ込んできた柚子ビールは、唇を通り過ぎた直後にシュワっと泡になり、柚子の香りと甘味をともなって流れ込む。
「んん…」
コクンと音を立て飲み込むと、健太は離れていき、ビールの苦みが口の中に広がった。
「ん…もっと」
もうひとくち口に含んだ健太の首に両腕を回し引き寄せると、ビールを含んだまま、口の端を上げて笑った。
ゆっくりと近付いてくる健太を、唇を薄く開いて待つ。
再び流れ込んできたビールを飲み込むと、唇を合わせたまま、健太がクスッと笑った。
「な、なに…?」
「今のエッロいキス待ち顔は…俺を待ってたの?それともビール?」
またそうゆう事を聞く…
「ねえ、どっち?」
健太のキスに決まってんじゃん!
とは、恥ずかしすぎて言えるわけがない。
「…ビール…かな」
「ふうん…」
この上なく白けた瞳で僕を正面から見つめる健太は、その白けた瞳のまま、再び柚子茶の小瓶の蓋を開けた。
「そんなに気に入ったんだ?柚子茶」
「え?うん、まあ…」
「じゃあもっと味わっといた方がいいよね」
健太の言葉の意図が読めない。
さっきと同じように、小瓶から人差し指で柚子茶を掬うと、健太は自分の唇にそれを塗った。
「はい、舐めて?」
「えっ…味わうってそうゆう事?」
「そ、しっかり味わって」
まるでグロスでも塗ったようにテラテラと光っている唇が、少しだけ尖っているのは気のせいだろうか。
柚子ビールか、自分か、で柚子ビールを選んだせいで不貞腐れてしまったのかもしれない。
やっぱり子供か?
でも、かわい…
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