8. 失えない人

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「…………今日…………行きたいとこ、……あって……」 「うん?」 「いっしょ、に……行ってくれる?」 「そりゃもちろんいいけど。……どこに行きたいの?」 「──────章悟の、とこ……」 「……」  固い声で呟いた司が、今にも泣き出しそうに潤んだ目を見開いて涙を堪えている。 「…………今日…………命日、だって……気付いたんだ、今朝」 「めい、にち……」 「……ずっと……考えないようにしてたんだけど……。……今朝、急に……思い出して」  段々小さくなる声は、微かに震えて今にも消えてしまいそうで。  だけど、突然突き付けられた「命日」なんて重い言葉に、オレ自身も真綿で包まれたみたいに息苦しくなる。  目の前の司はもっと苦しいんだろうなと思ったら、掠れた声で聞き返していた。 「…………どこに、行くの?」 「…………とりあえず、事故が、あったとこに……行こうと、思って……」 「…………それ、オレも……行っていいの?」 「うん」  こっくりと頷いた司は。  オレの服の裾を、きゅっと不安そうに掴む。その仕草は、まるで迷子の子供みたいに幼くて頼りない。 「一人、で……行く勇気…………なくて……」 「司……」 「一人で、行ったら……また、そこから……動けなくなるかもしんないって………………恐くて。…………こんなん、瀧川に頼むことじゃないって、分かってるんだけど……。でも……他に、頼める人、いなくて……」  情けなくてごめん、と項垂れた司の頭を、なんとか動揺から立ち直ってぽふぽふと撫でる。 「分かった。──一緒に、行こう」 「…………ありがと」  *****
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