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「ちょっとそのまま待ってて。タオル取ってくるから」
あの日と同じように、瀧川に手を引かれて辿り着いたマンションの一室。
玄関にオレを残して部屋の中に消えた瀧川が、タオルを何枚か持って走って戻ってくる。
瀧川が行き来した道にも水滴は残ってるのに。
「はい、これ」
瀧川は、ぱさ、とオレの頭にタオルを被せてがしがしと拭いてくれる。
「……ホント、お母さんみたいだね」
「……うん、まぁいいや、お母さんでも」
苦笑いでそう呟いた瀧川が、タオルの間からオレを見つめて。
「司、思ったより冷えてるね。シャワー使って、温まりな。その間に着替え持ってくるから」
「え、いいよそんなの」
「いいから。また風邪引いちゃうよ」
「でも、瀧川だって濡れてるんだし」
「オレは後で大丈夫」
な? と笑った瀧川が、強引に腕を引くから。
わたわたと靴を脱いで、手を引かれるまま浴室へ。
「濡れた服は、とりあえず洗濯機に入れといていいよ」
「ぁ、うん……」
「着替え、ちゃんと準備しとくから」
「うん……」
「ちゃんと温まってから出ておいでよ」
「……うん」
相変わらずお母さんみたいな小言を沢山並べて、瀧川は忙しそうに浴室を出て行く。
ありがたさと申し訳なさを持て余しながら、濡れて脱ぎにくい服に手をかけた。
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