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見えなくなった後ろ姿は、やけに凛としてピンと背筋が伸びていて、とても綺麗だった。
──だからといって惜しいとも思わない自分は、やっぱり彼女を好きじゃなかったことになるんだろうか。
店内にいた客達の好奇の視線を体中に浴びながらゆっくりと立ち上がって、中身の減っていない二人分の紙コップをゴミ箱に捨てたら、何もなかったみたいな顔して店を出る。
「……寒……」
途端に吹き抜けた風に首を竦めた。
昨日までならこんな時、手を繋いで「あったかいね」なんてむず痒く笑っていたけれど。
上着のポケットに手を突っ込んで、溜め息を一つ。
淋しいんだか、寒いんだかよく分からないまま駅に向かう。
呼び出されて大学のそばにあるコーヒーショップまで、わざわざ電車に乗って来たというのに。無駄なコーヒー代まで払ってフラれるだなんて。
だったらメールか電話で済ませてくれたらいいのに、なんて多少デリカシーにかける文句を呟きながら、電車に乗り込む。
車内は十分に暖かいのに、わざわざ身を寄せ合ってるカップルの姿にトゲトゲと心を刺激されながら、窓の外を睨み付けた。
小さな声で、それでも弾むように会話するカップルの華やかな音にじわじわと責められて、心がくさくさする。
最寄り駅に着く頃には、もうカップルも外の景色も睨むだけの気力は残っていなくて。
惜しくなかったくせに、独りであることを強調された途端に淋しくなる自分勝手さに、更にヘコんで電車を降りる。
気分的に駅前の賑わうメインストリートから逸れて、いつも人気がなくて静かな公園の中を通る途中。
目の前で沈んでいく大きなオレンジ色の太陽を見つけて、立ち止まる。
(………………キレーだなぁ……)
いつもならそんな風に立ち止まったりしないくせに、やけにセンチメンタルな気分で沈んでいく夕陽を眺めていたら。
視界の端。
細身の男が、やけに熱心に空を見上げているのに気づいた。
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