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同い年くらい、だろうか。
近所にふらりと散歩に出かけるみたいな軽装で、公園の隅にあるベンチに座っている。
なんだか切実な願いの込められた目は、恐いくらいに綺麗に澄んでいるのに、とてつもなく深い哀しみを映していて。
笑って欲しいと唐突に思った。
その想いはまるで、胸を刺されたみたいな強い痛みでもって、オレを揺さぶって。
見ず知らずの──しかも男を相手に、なんでそんなことをと狼狽えながらも。
哀しみ苦しんでいるその瞳は、オレの心までも切なく痛くして。
(なんで、オレ……)
訳が分からなかった。
なんでこんなにも心揺さぶられるのかも分からないまま、ふらふらと男の元へ歩み出している自分に気づいて、またも狼狽える。
(オレが行ってなんになるんだ、って……)
オロオロウロウロと歩く自分は、さぞかし不審者めいていることだろうと。
自分のことながらにゲンナリする。
(──でも)
放っておけないんだと、何度も足を止めたり進めたりしながらようやく気づいたのは、そんな単純な理由だ。
苦しい。淋しい。辛い。哀しい。
瞳に映るそんな気持ちの奥にある『助けて』が。
今のオレを揺さぶっているんだと、自覚した瞬間に放っておけなくなった。
ドキドキと胸が鳴るのは、見ず知らずの男に、男である自分が声をかけるなんていう気持ちの悪い状況を強いられているせいだと決めつけて。
じゃり、と音を立てて、彼の傍で立ち止まる。
「──、っ」
誰を、呼んだのだろう。
立ち止まったオレに気づいて、ハッと顔を上げた彼の唇は、見知らぬ誰かの名前を紡ごうとして口ごもった。
その綺麗な目に浮かぶのは、哀しいくらいの落胆だ。求める誰かがここに立ったと勘違いしたのだろうか。
あからさまな落胆を浮かべるのに申し訳なささえ覚えながらも、ほんの少しだけ傷ついた心を隠して、そっと声をかける。
「…………大丈夫?」
「……ぇ?」
目の前の彼は、キョトンと目を見張ってまじまじとオレを見つめ返してきた。
「…………大丈夫?」
透明な瞳に無言で見つめられて、やっぱりやめておけば良かったか、なんて一瞬後悔しながらも。
結局はその瞳を放ってはおけないのだからと、腹を括って同じ台詞を繰り返したら。
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