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ぐしゅぐしゅと鼻をすすり上げながら、ひくひくと鳴って落ち着かない喉を持て余し始めた頃。
苦しいくらいに強くオレを抱き締めていた瀧川が、そっとオレの顔を覗き込んできて。
咄嗟に俯いて顔を隠した。
「だめ」
「ん?」
「見ちゃだめ」
「なんで」
「やだ」
こんな顔見られたくないとボソボソ呟いたら、瀧川がそっと微笑う気配がして。
俯いていた頭のてっぺんを、優しい手のひらでぽふぽふと撫でてくれる。
「見ないから。とりあえず、移動しよう」
「どこに」
燃えるように熱い顔を、泣きすぎて痺れた手のひらで挟んで冷やしながら聞いたら。うん、と少し迷った瀧川が
「…………オレん家、来る?」
「ぇ?」
「司、びしょ濡れだし。司ン家より、オレの家の方が近いから」
「……でも」
「一人暮らしで誰かに気ぃ遣う必要もないし。そんなびしょ濡れで帰ったら、家の人に色々聞かれちゃうでしょ」
そんな風に提案しながら、どうかな、と不安そうな声を出した。
「……床とか、濡らしちゃうよ?」
「いいよ、そんなの。拭けば済むし」
結局はオレの返事を聞かずに、ぐぃっとオレの腕を引いた瀧川が。
「……雨……」
「?」
「やんだね」
家に誘った時の不安そうな声と違って、明るい声でそう笑うから。
つられたみたいに顔を上げて、雲の隙間から差し込む光を見上げる。
「……ホントだ……」
「やんで良かったね。…………ま、もうずぶ濡れだけど」
軽い調子で笑った瀧川が、オレの頬に触れて。
「ごめんね」
「ぇ?」
「泣かせるようなこと言って」
「ぁ……」
「……今度こそ、待ってるね」
「何、を」
「司から話してくれるまで」
にこりと笑った瀧川の手のひらが、ぐいぐいとオレの頬を拭って去っていく。
「待ってるよ」
ずっと、と付け足して微笑んだ瀧川が、行こう、と促して強く手を引いてくれる。
つんのめるみたいに歩き出しながら。
強引な優しさが、今はなんだか有り難いような気がした。
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