4. 雨が連れてきた虹

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 ぐしゅぐしゅと鼻をすすり上げながら、ひくひくと鳴って落ち着かない喉を持て余し始めた頃。  苦しいくらいに強くオレを抱き締めていた瀧川が、そっとオレの顔を覗き込んできて。  咄嗟に俯いて顔を隠した。 「だめ」 「ん?」 「見ちゃだめ」 「なんで」 「やだ」  こんな顔見られたくないとボソボソ呟いたら、瀧川がそっと微笑う気配がして。  俯いていた頭のてっぺんを、優しい手のひらでぽふぽふと撫でてくれる。 「見ないから。とりあえず、移動しよう」 「どこに」  燃えるように熱い顔を、泣きすぎて痺れた手のひらで挟んで冷やしながら聞いたら。うん、と少し迷った瀧川が 「…………オレん家、来る?」 「ぇ?」 「司、びしょ濡れだし。司ン家より、オレの家の方が近いから」 「……でも」 「一人暮らしで誰かに気ぃ遣う必要もないし。そんなびしょ濡れで帰ったら、家の人に色々聞かれちゃうでしょ」  そんな風に提案しながら、どうかな、と不安そうな声を出した。 「……床とか、濡らしちゃうよ?」 「いいよ、そんなの。拭けば済むし」  結局はオレの返事を聞かずに、ぐぃっとオレの腕を引いた瀧川が。 「……雨……」 「?」 「やんだね」  家に誘った時の不安そうな声と違って、明るい声でそう笑うから。  つられたみたいに顔を上げて、雲の隙間から差し込む光を見上げる。 「……ホントだ……」 「やんで良かったね。…………ま、もうずぶ濡れだけど」  軽い調子で笑った瀧川が、オレの頬に触れて。 「ごめんね」 「ぇ?」 「泣かせるようなこと言って」 「ぁ……」 「……今度こそ、待ってるね」 「何、を」 「司から話してくれるまで」  にこりと笑った瀧川の手のひらが、ぐいぐいとオレの頬を拭って去っていく。 「待ってるよ」  ずっと、と付け足して微笑んだ瀧川が、行こう、と促して強く手を引いてくれる。  つんのめるみたいに歩き出しながら。  強引な優しさが、今はなんだか有り難いような気がした。
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