6. 君が教えてくれたこと

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「連れてけるなら、連れてってるよ」 「──ぇ?」  呻くみたいな声が、口から零れて。  その声にまた、司の視線がオレに向く。 「そんなん……決まってんじゃん。好きな人と一緒にいたいなんて。そんなん、誰でも思うよ」 「……たきがわ?」 「一緒に。連れてけたら、どんなにいいだろって。……『しょうご』だって、きっとそう思ってるよ」 「……」 「でもさ……同じくらいに、連れてけないよ、きっと」 「……ど、して?」 「オレだって独りじゃ嫌だよ。連れていきたい。……だけど、同じくらい──生きてて欲しい。自分が無事かどうかなんて、二の次で……──大事な人に、とにかく無事でいて欲しいって、思うよ」  司の手に、触れていた手で。  ぎゅっと、司の手を握った。 「死んじゃうつもりなんて、なかったに決まってる」 「っ……」 「司と、絶対──生きていきたいって、思ってたに決まってる」 「……うん」 「司を助けて、自分も助かるつもりだったに決まってるよ?」 「……うん……」 「置いてった訳じゃないよ。……連れて行きたくても、連れて行けないよ。……だって司は、──ちゃんと、生きてんだから。……それなら、ちゃんと、生きてて欲しいって、思うに決まってるよ」 「たきがわ……」  息が、苦しい。  何かが目の前を邪魔して、よく見えない。  司の手を握ったままの指先が、痺れてる。 「──ごめん」  泣きそうに歪んだ顔で謝った司が、オレの頬に手を伸ばして。 「ありがと」  ふわりと笑った後で、オレの頬を拭う。  あぁ、オレ泣いてたんだ、なんて。その時に初めて気付いて。  慌てて服の袖で顔をごしごし拭いてたら。  ぽむ、と。  何かに──司の、手のひらに。  ぎこちなく──でも、優しく頭を撫でられて。  呆気にとられて顔を拭いてた手を下ろしたら、困った顔した司が、オレをさらに撫でてくれる。 「泣かないで、瀧川」 「……ッ」 「ありがと」 「……」 「…………ありがと」  泣き濡れた目のままはにかんだ笑顔に、うん、と。  もう一度頷いて、やっと照れ臭く笑い返した。
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