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もう待てないと思ったのに、意外と辛抱強かったオレの。理性はまだ、なんとか保たれていて。
司の、強ばって固くなった殻がゆっくりと解けていくのを傍で見つめながら、自分の我慢強さを誰にともなく誇る。
そんな風に自分を褒めでもしなければ、今にも司に詰め寄ってしまいそうで、いつでも不安と隣り合わせの毎日だった。
独りで泣かずにオレを呼んでと。告げた後すぐの頃は、本当に空を見上げては泣いていた司も、最近では随分落ち着いている。
淋しそうに公園内を彷徨っていた瞳にも、笑顔が浮かぶようになってきた。
すっかり癒えた訳では、ないのだろうけれど。
それでも、初めて出逢ったときのような切実すぎる危うさは、今はもうどこにもない。
時々は惚気にも似た思い出話をして、泣き笑うこともある。
なかなかに苦痛を強いられる時間ではあるものの、お蔭で司のことに随分と詳しくなれた気がすると、ヤケクソなポジティブさで司の丸ごとを受け止めながら。オレの傍で安心して泣いたり笑ったりしてくれる司をどうしても愛しいと思うのだから、自分も大概お人好しだ。
それでも、そんな司に付き合うことで、オレ自身も気付いたことがあった。
司と出逢う前に、女の子と付き合うたびにフラれていた自分は。
彼女達と向き合っていたつもりで、実は全く何も見ていなかったのだと思う。
彼女達の好みそうなものや食事や映画は、ただ「女の子」という括りで縛っただけの、大雑把な枠でしか考えていなかったし。
何より。
こんな風に真剣に。
傍で笑っていて欲しい、と。
思ったことがないなんて、致命的だ。きっと彼女達は、そんな自分に早々と気付いて去っていったんだろう。
(やっぱオレのせいか……)
優しいから勘違いすると、みんな言っていた。
興味があってもなくても優しく出来るなんて器用な真似は、自分には出来ないと思っていたけれど。
むしろ興味がないから、雑誌で見かけるような当たり障りのない単純な優しさしか彼女達に返せなかったのだろう。
ぼんやりと考え込んでいたら。
じゃり、と砂を強く踏みしめる音が聞こえて。
「────ぁ」
その音の立て方から、司じゃないなと思いながら訝しむ視線を向けたら。
あの日、司に迫っていた晃太がそこに立っていた。
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