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(──今日はオレが先か)
いつものベンチに見当たらない司の姿に少しだけがっかりしながら、ベンチに座って欠伸を一つ。
大学の長い夏休みの間に染みついてしまった怠惰な生活の名残が、いつまで経っても抜けなくて。
しょぼつく目を擦って、欠伸をもう一つ。
気を抜くと寝てしまいそうだからと携帯を手にしてなんとなくネットの海を漂いながら、司が来るのを待つことにした。
(──ぁ、瀧川)
学校帰りに立ち寄った公園のいつものベンチに、今日は瀧川が先に座っていた。
だけど瀧川は、携帯を手に持ったままの姿勢で眠っているようで。
ふ、と思わず笑ってから、起こさないようにそっとその隣に腰掛ける。
いつもは優しくオレを見つめる目が閉じられているだけで、すっきりと整った顔はイケメン度が上がっているような気がする。
そんな風に思ってまじまじと見つめていたせいか、瀧川がぱちりと目を開けて。
「──っ」
驚いて、慌てて顔を逸らしたのに。
「……あぁ、司だ」
いつもの頼りになる声とは違う寝起きのふにゃふにゃとした頼りない声に、嬉しそうに呼ばれて。
──胸が。
ぎゅっと鷲掴まれたみたいに、切なく痛くなった。
ギシギシと音を立てそうなくらいにぎこちなく顔を向けたら、ふにゃっとした柔らかくて幸せそうな顔した瀧川が眠たそうに笑った後。
こてん、と。
オレの肩に頭を乗せて、また気持ちよさそうに寝息を立て始める。
その、無防備な姿を。
──隠しようもない程に愛しいと思った。
穏やかな寝顔が、柔らかな声が。
愛しくて胸が痛くて。
苦しくて仕方なくて。
衝動を抑えきれないままに、震える手で瀧川の頬に触れたら。
瀧川はぱちりと目を開けて、ハタと我に返ったみたいに慌てて背筋を伸ばした。
「ごめっ、オレ、いつの間に寝てっ……って、司?」
「ぇ?」
「……なんで、泣いてんの?」
「ない、て?」
キョトンとしたオレの頬に手を伸ばす瀧川が、痛そうな顔で呟く。
「章悟のこと、思い出してたの?」
「ちがっ」
ぶんぶんと首を振りながら続かない言葉に焦れて、優しく頬を拭ってくれる瀧川の手をぎゅっと握る。
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