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最近、うちの近所の長屋に「なんでも屋いしざき」という店ができた。  その長屋は、1年ちょっと前まで陽気なおじいちゃんが、小さいけれど、すごくおいしいせんべい屋をやっていた。薄汚れた今時珍しい木造の店で、売れてるのかよくわかんないけれど、おじいちゃんは毎日幸せそうにせんべいを焼いていた。  おばあちゃんが死んじゃってからは、老人ホーム入り。しかも息子夫婦は、さらっとあの思い出の長屋を売りに出してしまった。  だけど、あんなボロボロの長屋、誰も買いっこなかった。確かにここは都心じゃないし、高いビルが軒を連ねてるわけでもないけど、ちょっと寂れてるとはいえ、田舎と呼ぶには発展しすぎた郊外の住宅街だった。  だからその元せんべい屋はずっと空き家で、子供たちの格好の遊び場になっていたんだ。
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