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「――謝らなくていいよ」
「カガサキ……」
今、映画館に誰も居なくて良かった。
パニック状態の人を抑えるのに、手っ取り早い方法が使えるから。
ただし、その後の人間関係がどうなるかはわからないけど。
◇
狼男の咆哮が、スピーカーから大音量で流れる。
狼の咆哮を聞きながら、ボクとガルムは見つめ合う。
「ねぇ、ガルム」
「なんだ?」
座席に座り直したガルムは、ドリンクホルダーに納めていたコーラをひと口飲んだ。
「偶然――なのかな? これって」
「というと?」
ボクはシートの背もたれを、ほんの少しだけ倒す。
「どこかの人によればね、偶然っていう言葉は、神秘の隠語なんだって。
知りえない法則を隠すのに、偶然って言葉を使う……そう言ってた」
ボクの説明を聞いて、ガルムは納得した様子でうなづく。
「外国から転校してきて、カガサキに出会う。
同じ部屋にもなって、オレが狼男であることを、カガサキにだけ明かした。
全部、知りえない何かで繋がってるってことか?」
ボクはうなずき、笑った。「そうね……例えば、お互いが運命の相手だった――とか?」
ボクがぼそっと言うと、ガルムはコーラを吹き出しそうになる。
その様子を見て、ボクは笑った。
チョコソースのかかったポップコーンを食べながら。
◇
「――カガサキ」
「ん?」
映画がクライマックスに差し掛かった頃、ガルムがボクの肩を抱いてきた。
優しく、けれど力強く。
「お互いが運命の相手かどうか確かめるついでに、オレと付き合ってくれないか?」
ガルムの言葉を聞いたボクは、ため息をついた。
「"ついで"なんて言葉を使うんじゃないよ。
運命の相手じゃなかったらどうするのさ」
ボクの言葉に、ガルムはしゅんとしてしまう。
「ダメなのか?」
「だーかーらー、運命の相手とかそういうの関係なしで、付き合おうってこと!」
ガルムは顔を上げ、きょとんとした表情になった。
その姿は、狼というより――ゴールデンレトリバーのような大型犬を彷彿とさせる。
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