第1章

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「強いのダメ。でなきゃ、や、よ」  震えないから、最近はこういう拒否にも力が入るようになったんだ。  前は、俺の手の内、なすがままの、彼女だったから。  だから、さなには悪いケド、実は少し、治んなきゃいいのにって思ってたから、さなの不安に無頓着、気にしてなかった。どちらかというと、強く抗えない、さなに悪いなって思うことしたりして。ウタッテ、なんて言ってみたり。  さなが側にいて、こういう時、俺はホント阿呆になるなぁ。  一緒に暮らし始めたころ、さなは、ピアノにのめり込んで、俺をホントに無視したことがあった。  さなの不安をわかってるようで、やっぱり、わかっていなかった。  彼女は震える指の緊張感が、毎日、それもずっと、だ。  俺は、一緒に居られることの当たり前が手に入って、嬉しいだけで。  さなは、聡いから。  指先に別の意識を持たせようと、ピアノを弾き始めたんだ。  と言っても、すぐに目的は変わって、ただ好きで弾いてるんだけど。  あの時がピークで、このまま、暮らすこと自信が無くなって、怒っていいから、ほうっておいて欲しかったんだって。
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