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地面に広がる雪に、僕は頭から突っ込んだ。
人間とは違って、幸い僕らはこんなことくらいじゃ死なない。身体のどこにも痛みはない。全身を包み込む雪が、冷たく染み込んでくるだけ。
でも、だからってむちゃくちゃだ。何がしたくてこんなことを。
「おいっ……!」
身を起こした僕は、黒羽根を睨むつもりで頭上の木を見上げた。
だけど、真っ先に視界に映りこんだのは、余裕を含んだ微笑みなんかじゃなくて。
「なーに?」
僕の顔を覗きこむ、小さな女の子の顔だった。
女の子は驚いたような表情をしてるけど、僕はもっとびっくりした。感情の通ったその瞳が、あまりにも澄みきっていたから。
不安定な熱が、僕の中で飛び跳ねる。
目を離すのがもったいなくて、ただただじっと見ていると、視線の先の表情が少し変わった。
「ねぇ、大丈夫? もしかして、頭、痛いの?」
小さい口が動いてる。そう意識して、僕の世界は、ようやく音を取り戻した。
女の子の首元もやっと目に入る。無邪気な幼さに似合わない、落ち着きすぎた無地のマフラー。夜空を飾る星みたいに、いくつもの雪の粒が、その黒い毛糸に張りついていく。
そこまで認識して、僕は初めて理解した。さっきまで聞こえてたはずの歌声が止んでることも。目の前にいるこの子が、その歌ってた張本人だっていうことも。
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