1 花と雪

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「またあの子のこと見に来たんだな」 「別に……あの子を見てるわけじゃない。僕はただ、あの子の歌を聞きに来てるだけ」 「それだけなら、わざわざこんな近くまで見に来る必要ないだろ」 「…………そんなことより、早く引っ込めてよ。これ」 「そう怒るなよ。これも、俺達のコミュニケーションの一つじゃん」  殺気を漂わせない黒羽根は、鎖を絡めた鎌を自分の手元に落ち着かせた。  でも消えてはくれなくて、自然な態度で隣に座ってくる。それなりの距離を空けて。  好意を示して接してくるわけでもなければ、敵意を飛ばしてくるわけでもない。  こいつが何を考えてるか、僕にはちっともわからない。わかりたくもない。  掴めない、得体の知れない漆黒の影を、僕は一層強く睨む。 「…………君は何をしに来たの」 「人間の女の子を見守る優しい天使様と交流しに来ただけ。いつもそう言ってるだろ?」 「僕は悪魔(きみ)と仲良くなるつもりはない」 「だろうな。俺も、友達にしてくれなんて言うつもりないよ。ただ…………」  あ、と思った時には、枯れ果てた枝から身体が浮いていた。黒い鎌の柄の先に、肩を押されて。 「いい加減、見てられなくなったから、さ」  その言葉と笑顔の意味を理解する暇もなく、僕は落下した。突然の出来事だったせいで、間抜けにも、羽根を広げるのを忘れて。
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