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「またあの子のこと見に来たんだな」
「別に……あの子を見てるわけじゃない。僕はただ、あの子の歌を聞きに来てるだけ」
「それだけなら、わざわざこんな近くまで見に来る必要ないだろ」
「…………そんなことより、早く引っ込めてよ。これ」
「そう怒るなよ。これも、俺達のコミュニケーションの一つじゃん」
殺気を漂わせない黒羽根は、鎖を絡めた鎌を自分の手元に落ち着かせた。
でも消えてはくれなくて、自然な態度で隣に座ってくる。それなりの距離を空けて。
好意を示して接してくるわけでもなければ、敵意を飛ばしてくるわけでもない。
こいつが何を考えてるか、僕にはちっともわからない。わかりたくもない。
掴めない、得体の知れない漆黒の影を、僕は一層強く睨む。
「…………君は何をしに来たの」
「人間の女の子を見守る優しい天使様と交流しに来ただけ。いつもそう言ってるだろ?」
「僕は悪魔と仲良くなるつもりはない」
「だろうな。俺も、友達にしてくれなんて言うつもりないよ。ただ…………」
あ、と思った時には、枯れ果てた枝から身体が浮いていた。黒い鎌の柄の先に、肩を押されて。
「いい加減、見てられなくなったから、さ」
その言葉と笑顔の意味を理解する暇もなく、僕は落下した。突然の出来事だったせいで、間抜けにも、羽根を広げるのを忘れて。
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