第二章:墓参り

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01.  ある秋の夜長。  キキさんの姿が、BAR.ブレイブハートのカウンターにあった。  先ほどまでは店内も賑わっていたのだが、パタパタと客が帰り始め、今、店内はキキさんだけである。  ソファ席を片付けたマスターが、カウンターに戻ってきた。  その姿はどう見ても人間なのだが、しかしスヴェシと違い年をとって老けることがない。  何らかの呪いでも掛けられているのか。それとも精霊に取り憑かれているのか。  だが、そのような事を聞くのは社会通念上失礼に当たる。  キキさんは特に気にせず、今でもブレイブハートに通っていた。 「久しぶりだな、キキさん」  マンツーマンになった客であるキキさんに、マスターは笑いかけた。 「お久しぶりです。最近は、砦跡のハクと宅飲みすることも増えてしまいまして」 「それは良い。あの娘は外で知り合いを作ることも出来ない立場だから。交流を増やすのはいい事だ」 「ブレイブハートの客は減りますけど?」 「うちは何もキキさん一人で持っているわけじゃないさ」  キキさんの注文したカクテルを差し出しながら、マスターは聞いてきた。 「あの娘、国教会に酒は禁止されていたと思うが……。どんなのが好きなんだ?」 「ライ麦の蒸留酒を好みますね。だいたいロックで飲ってます。私が最初に飲ませたのが”望楼”だったせいもあるかもしれませんが」 「ああ、ミティシェーリが好んだ……ウチから買ったヤツか。あれを出すとは、随分と思い切ったな」  マスターはちょっと驚いた表情を見せた。 「マスターはよく言うじゃありませんか。酒には飲むべき時があるって」 「うむ。それで行けば、あの“望楼“も幸せだったろうな」 「お陰で、友人が一人、増えました」 「それにしても、氷の種族は押しなべて強い酒が好きだからな。よく飲むだろ」 「あのペースには付き合えません……マスター、氷の種族の酒のことなんてよく知ってますね」 「まぁ、昔は色々あったからな」 「……? もしかして戦争に?」 「……ああ」 「……マスターは……」  キキさんは、ちょっと興味の出たことを聞いてみた。 「魔王ミティシェーリを見たことがありますか?」 「……あるよ。あれは美しい女性だった」
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