3人が本棚に入れています
本棚に追加
01.
ある秋の夜長。
キキさんの姿が、BAR.ブレイブハートのカウンターにあった。
先ほどまでは店内も賑わっていたのだが、パタパタと客が帰り始め、今、店内はキキさんだけである。
ソファ席を片付けたマスターが、カウンターに戻ってきた。
その姿はどう見ても人間なのだが、しかしスヴェシと違い年をとって老けることがない。
何らかの呪いでも掛けられているのか。それとも精霊に取り憑かれているのか。
だが、そのような事を聞くのは社会通念上失礼に当たる。
キキさんは特に気にせず、今でもブレイブハートに通っていた。
「久しぶりだな、キキさん」
マンツーマンになった客であるキキさんに、マスターは笑いかけた。
「お久しぶりです。最近は、砦跡のハクと宅飲みすることも増えてしまいまして」
「それは良い。あの娘は外で知り合いを作ることも出来ない立場だから。交流を増やすのはいい事だ」
「ブレイブハートの客は減りますけど?」
「うちは何もキキさん一人で持っているわけじゃないさ」
キキさんの注文したカクテルを差し出しながら、マスターは聞いてきた。
「あの娘、国教会に酒は禁止されていたと思うが……。どんなのが好きなんだ?」
「ライ麦の蒸留酒を好みますね。だいたいロックで飲ってます。私が最初に飲ませたのが”望楼”だったせいもあるかもしれませんが」
「ああ、ミティシェーリが好んだ……ウチから買ったヤツか。あれを出すとは、随分と思い切ったな」
マスターはちょっと驚いた表情を見せた。
「マスターはよく言うじゃありませんか。酒には飲むべき時があるって」
「うむ。それで行けば、あの“望楼“も幸せだったろうな」
「お陰で、友人が一人、増えました」
「それにしても、氷の種族は押しなべて強い酒が好きだからな。よく飲むだろ」
「あのペースには付き合えません……マスター、氷の種族の酒のことなんてよく知ってますね」
「まぁ、昔は色々あったからな」
「……? もしかして戦争に?」
「……ああ」
「……マスターは……」
キキさんは、ちょっと興味の出たことを聞いてみた。
「魔王ミティシェーリを見たことがありますか?」
「……あるよ。あれは美しい女性だった」
最初のコメントを投稿しよう!