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マスターは、戦時中のことを語るのを、それほど忌避していないようだった。
「彼女本人は特に戦闘能力があったわけではなかった。いや吹雪を操るから、一般的な人間から見れば脅威ではあるが、それでも戦場で一対一で向き合っても特に怖い存在ではない。だが……」
「だが?」
「彼女が前線に出てくると、氷の種族たちが沸き立つんだ。彼女を守ろう、あるいは彼女が見ていてくれると思うだけで、心が奮い立つんだろうな。見た目の美しさもそうだが、立居振舞いが格好良くて、とにかく意志が強かった。あれはまさにアイドルとかカリスマと呼ばれる存在だったな」
「娘のハクとは違いますね」
「そりゃ、そうだろう。カリスマ性なんて受け継がれるものでもない。いやそれ以前に、あの娘は戦後からずっと幽閉されているんだ。カリスマ性どころか、社交性すら育たんだろう」
「ハクと会ったことが?」
「ああ、一度だけ、会話をしたことがある。オレにも考えがあって、ちょっとしたものを渡した……それはそれとして、キキさん」
「なんでしょう?」
「最近、国教会からの支払いはどうだ? 滞ってたりはしないか?」
「いえ、今のところそれは一度もないです。この間、布を買いに行った時に仕立て屋の店主さんに聞いたのですが、むしろ最近は喜捨以外にもお金をかき集めていて、羽振りがいいとか」
「ふむ。だが、その店主はそれを快く言っていたわけではないだろう?」
「そうですね、むしろ批判的でした」
「最近なにかキナ臭い感じがする。国教会に限らず、国家運営の根幹に関わる者たちが、どうも私利私欲に走ってタガを外してしまっているような」
マスターはため息を付いた。
「キキさんの仕事に関わる事で何かあったら、遠慮なく言ってくれ。紹介した以上こちらも気になるし、場合によっては話を通すことも出来る」
「あてにしておりますわ」
本当に、この人は国教会の何なのだろう?
キキさんは、ライ麦酒をグレープフルーツとクランベリーのジュースで割ったピンクのカクテルに口をつけながら考えた。
答えは出なかった。
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