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最初の頃は、クークラも話すことが出来なかった。でも、何か危なっかしい動きをしていたので目を離せなかった。
クークラが今の人形に入って会話をできるようになったのは、二代目の担当主教の時。おおらかな性格の人で、クークラのためにもっと良い人形が欲しいと頼み込んだ。
まさかあんなに精巧で高級な人形を贈られるとは思わなかった。
とは言え、そのお陰でクークラと話せるようになり、自分の精神もこの頃から随分と安定したように思う。
ああそれから、とハクは言った。
「言い忘れていましたが、勇者様とも、この砦に幽閉された直後に一度会ったことがあります」
「それって、クークラを渡されたとき?」
「はい。事前に、人形を作っておくようにと国教会の人から言われていて。勇者様は、水晶の中で眠ったようになっているクークラを、その人形に乗り移らせて目覚めさせました」
「どんな感じだったの?」
「ゲーエルーさんが言うクマのような人、というのが見た目の印象でした。でも、話してみたら全然ちがって、落ち着きのある優しい感じの人でした」
ハクは、基本的に勇者には様付けをして呼ぶ。
それは国教会からの指示でもあるのだろうが、この時の経験もそうさせているのだろうか。有徳な人物だったのは確かなようだ。
「だから、キキさんが初めてここに来た時……あの面接の日は、本当に緊張していたんですよ。久しぶりに知らない人と話す事になって」
ハクは笑いながら言う。
あの日のハクが緊張していたのはよくわかった。あまり目を合わせようとしなかったし、ちょっとしたアクシデントでもすごく焦っていた。
それにしても、とキキさんは思った。
バーのマスターに当たりそうな人が、話の中で出てこなかった。ハクが言うとおり、終戦直後のドサクサで出会った軍人の一人だったのだろうか。
「あ、そうだキキさん」
「ん? なに?」
「今度の休み……ちょっと付き合ってほしいことがあるんですけど……」
「いいわ。明日からのシフトが終わったらで良いなら……なに?」
「えーと……」
ハクは少し考えてから言った。
「墓参り……かな?」
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