第二章:墓参り

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「何年か前に母の魂がとどまっていると二人に聞いて、ずっと考えていたんです。母に感謝を表したいって。墓参りの作法はわからないけど、それを知っていても、ここではあまり意味を成さないんじゃないかって」  確かに、普通の環境ではない。 「だから私なりに、母や、その仲間たちに思いを馳せることを以って、砦跡での墓参りにしたいと思います」  ハクは、そう言いながら、手に持っていた箱の蓋を開けた。  凄まじい冷気が溢れ出す。  ハクを中心に、下生えの草に白い霜が降り、登り始めた月の光を浴びてキラキラと輝いた。  ハクは、氷の種族としての能力でその冷気をコントロールして、箱のなかに押し留めた。  そして、箱の中身の氷結晶を取り出すと、調度よい大きさの石を見つけ、その上に置いた。  月光に照らされたその氷結晶は、キキさんがかつて見た物の中でも、最も繊細で、最も美しかった。 「あれ以来、工房に篭もる頻度を上げて、余計に手間を掛けて創った特別製の氷結晶です。自分の作品としても、最高傑作と言っていいものに仕上がりました」  ハクは少し誇らしげに言った。 「これを創れるほどになったということを、母に報告したいんです」 「それがお墓参り?」 「ここでは。それがお墓参りです」 「うん……」  ミティシェーリの魂が、ハクの周りに集まってくる。キキさんとクークラはそれを感じ取っていた。 「なるほどね、確かにこれは……」  お墓参りだわ、とキキさんは思った。
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