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01.
あの日以来。
キキさんは、たまにお酒を持ってハクの部屋を訪れるようになった。
キキさんが館で一人過ごすのが何となく寂しい日とか、あるいはハクに元気が無い時とか。
そんな夜に、キキさんは来る。
それも当たり前になってきた。
今夜も、キキさんがプライベートで訪ねてきていた。
晩春。
スヴェシの査察があってまだ間もない。
二人は、ハクお気に入りの強いライ麦の蒸留酒が入ったグラスをうちあわせた。
「乾杯」「かんぱーい」
ロックで一口飲んでから、キキさんは今年のスヴェシはどんな感じだったのか、とハクに聞いた。
キキさんも顔をあわせてはいるが、ハクほど長い時間をスヴェシと過ごすことはない。
「毎年、あまり変わりません。もう、何年前でしたっけ。スヴェシさんが左手を凍傷で失ったのって……。あの年はさすがに元気がない感じだったんですけど」
「あのおじさんも、いい根性してるわよね」
オジサン呼ばわりしているが、実際に生きた年月はキキさんの方がはるかに長い。
ただ、だいたい全ての生き物は、見た目と精神年齢が一致する。
その意味で、キキさんにとってもやはりスヴェシはオジサンなのであった。
ハクは以前に比べ、スヴェシの来る季節になってもあまり不安がらなくなった。
奉神礼でのハクやミティシェーリへの悪口雑言も、聞き流せている。
ハクは、国教会の精神的な戒めから、着実に抜け出しつつあった。
国教会が禁じている飲酒を、なんのためらいもなくしているのも、その証拠だろう。
いや、ただの酒好きなのかもしれないが。
自信が付いたのだ、とキキさんは思っている。
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