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「墓参りは、モノが重要なんじゃなくて、自分が故人に何を伝えたかったのかが重要なのよ、多分。だから、これ自体にそんなに拘る必要はないの」
「それでも……墓参りのために心を込めて創ったものなのでしょう? 作品としても、以前のものにも増して美しいのに……」
キキさんがクークラの肩に手をおいて言った。
「キキさん。これからも氷結晶は創れますし、多分、これ以上のものも、そのうちモノにする事が出来ると思います」
ハクは自信を持って、そう答えた。
「だから、惜しくはないんです」
……
…………
翌日。
キキさんが自分の館に帰った後。
リビングでハクと二人きりになったクークラは言った。
「墓参りの時……」
「うん?」
「ボク、いつもよりもはっきりとミティシェーリの魂を認識できたんだ」
「お母さん、喜んでくれてたのかな?」
「多分。……それで……」
クークラは少しだけ言いよどんだ。
「……同じような機会があれば、ボクはミティシェーリの魂を選別して、モノに宿らせることが出来る……と、思う」
「それって……」
「生前のハクのお母さんが復活するってわけじゃないけど。でも……多分これはキキさんにも出来ない」
ハクは、ギュッとクークラを抱きしめた。
「ハクはどうしたい?」
「お母さんには会いたい。けど……」
ハクはクークラの額に自分の額を当てて言った。
「けど……それはしてはいけないことだと思う」
「なんで?」
「生と死には、きっと犯してはいけない境界があるの」
「それって……寂しくないの?」
「寂しいよ。でも……親しい人との別れに囚われてしまっては、生き物は前に進めない」
ハクはクークラの眼を見る。
「私は……そう、まだまだ先の話だけど、私は貴方より先に死にます」
「……そんな……」
「いい、クークラ。その時、貴方は、その悲しみを克服することで前に進みなさい。そうした後、たまに思い出してくれれば、私はそれで十分に満足すると思う」
ハクの言葉を聞き、クークラが黙ってしがみついて来た。
「皆が皆、同じ考えではないと思うけど。でもクークラ。私はそう考えているの」
ハクは、クークラの身体を、しっかりと抱きとめた。
その日以来。
砦跡を取り巻く大気に満ちる魂の中から、異質な感触を保っていたミティシェーリの魂が、ゆっくり、ゆっくりと周りに同化し始め、その存在は次第に希薄になっていった。
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