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創りだす氷結晶は、国教会からも求められるレベルに達した。
一人前以上の仕事をしているという実感。
クークラという子供を持ち、それに対する責任感を自覚したこともまた、彼女を強くしたのだろう。
そして。
こうして、友人と一緒に飲み交わす時間があるということ。
それも少なからぬ影響を持っている。
キキさんは決してそれを計算しているわけではない。
しかし。
自分は一人ではない。味方が……それも心強い味方がいるという事は、ハクの精神によい働きかけをしたのである。
「スヴェシって、もう幾つくらいになったのかしら?」
「六十歳前後ですよね。その……人間の年齢ってあまり実感がわかないんですけど」
「そうね。でももう引退とか、あるいはもっと偉くなって、国教会でも別の職についていてもおかしくないような気がするんだけど……。主教って、べつに終身制じゃないと思うし」
「前の担当主教の方たちは、だいたい次の世代の人に譲って辞められていましたね。世襲でもなく、その都度、手続きを踏んで選定されるんだそうです。でももっとお年を召した方も居られましたよ。逆に、スヴェシさんより若い主教として来られた方は居ませんでした」
キキさんは、初めてスヴェシを見た時のことを思い出す。
彼は、自分を査定するために、あえて予定を早めて訪問してきた。
あれ以来、もう二十回近く顔をあわせている。
キキさんは別にスヴェシのことが嫌いではない。むしろ、その職務への忠実さや、左腕を失ってなお氷結晶を手で持ち帰る精神力を高く評価している。
ただ、ハクにとって敵の立場の人間である。
出会い方が違えば、もしかしたらお互いに尊敬することのできる関係を築けたかもしれなかったが。
そうはならなかった。それは少し残念かもしれない。
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