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「最初に会った時には、まだ若々しかったんだけど。そういえばあの時、貴女、旅に出たいと言っていたわね」
「そうでしたっけ? あの頃は今よりもっとストレスを感じていたから。逃げたいとは思っていましたけど」
「わたしとしては賛成だけどね。クークラを連れて世界を見て回るのも」
「それが出来れば苦労はありませんよ」
ハクが苦笑した。
「それにしても、スヴェシも優秀だし若かったんだから、もっと上の地位に付いてさっさと居なくなるかと思っていたんだけど」
「……スヴェシさんは、その……」
「……? 何?」
「氷結晶が、好きなんじゃないかな? と、思うんですけど……」
「……」
「……ね?」
「……いや、それはないでしょ。確かに貴女の作る氷結晶は美しいわ。だけど、そのために、わざわざ出世の道を捨てて現職に留まるなんて……それも、あのスヴェシが」
「……ないですかね?」
ハクはそれ以上は言わなかった。
この実感は、多分、自分でなければ持てないだろうと思ったからだ。
年に一回会うだけとはいえ、付き合いは長く、深い。
鉄のような精神力に隠されたスヴェシの表情も、それなりに読めるようになってきた。
氷結晶を受領する時、必ず垣間見せる表情がある。
感情を制御できず、どうしても溢れさせてこぼしてしまうかのような、あの表情。
あれは。
喜び……いや、悦楽と言っていいものにしか見えないのだ。
「キキさん、最近、お酒をあんまり飲まなくなりましたよね」
ハクは話を変えた。
「……貴女に合わせるのをやめただけよ。わたしはね、これくらいのペースが丁度いいの」
キキさんは、最初の一杯だけをロックで飲み、あとはグラスの縁に塩を付け、グレープフルーツジュースで割って飲むようになっていた。
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