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同じようなリズムで、でもほんの少しの変化があって、波のうつ音はいつでも聞こえます。
じっと動かない私ですが、最近楽しみができました。
同じようなリズムで、でもほんの少しの変化がある、聞き慣れない音が聞こえてくるようになったのです。
どこの誰とは存じ上げませんが、海岸の側を通る道を駆け抜けられる方がおられるようなのです。いつも太陽が海へと沈むころ、地面を蹴る音が聞こえてきます。
今日もまた、見事に聞こえてきました。
また、聞こえてくるでしょうか。
初めてお聞きしてから、どれほどの時間が流れたでしょうか。
試み始めて半年、ようやく姿を拝見することができたのです。
何ということでしょう。これほど寒い風が吹きつけているというのに、あの方は短いズボンに短いシャツをお召しになっているではありませんか。
あの方は、すごい方なのかもしれませんね。
あの方の健康に祈りを込めて。
もう幾週間も続いているのです。
これまでになく苦しそうな顔をして、ひどく乱れたリズムで、あの方は駆け抜けていきます。
私の心配が当たり、健康を害しておられるのかもしれません。
もうやめてくださいませ、そうお伝えしたいのですが、私の声が届くことはないでしょう。
もし、この海に神様がおられるならば、どうかあの方をお守りください。
今日はあの方は、走っておられませんでした。
ただじっと、海の奥を見つめているだけなのです。
不安そうで、時に厳しい表情で、遠くを見ておられるのです。
こんなことは初めてです。
私が望んだことではあるのですが、見ているのが辛くなり目を背けてしまいました。
あの日以来、あの方は一度しか来られておりません。
その一度は、以前のように穏やかな音を刻んで、駆け抜けていかれました。
私には、その姿を見る勇気はありませんでした。
もし、私の願いを叶えてくださるならば、どうかあの方が幸せでありますように。
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