涙のせかい

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兄が死んだ日。俺は、泣かなかった。 全身にちからをいれ涙が、出ないようにたえていた。 なぜか泣いてはいけない気が、したんだ。 その姿があまりにも、ひどかったんだろう。 俺とはちがい幼馴染みはボロボロと、涙をこぼしながらいった。 「私が忍をまもるよ」 そのこえは涙でにじんでいたが、俺にはハッキリきこえた。 そのあとも幼馴染みは、なにか言おうとしていたが言葉になっていなかった。 もういい。 俺がいう前にあいつはさけんだ。 「私はつくるんだ。忍がおもいっきり泣けるせかいを。なにも考えずにすきなだけ、気のすむまで泣けるせかいを」 みているこっちが苦しくなるぐらい、あいつは泣いていた。 「なんで、お前がそこまで泣く。兄さんが死んだのが、そんなにかなしいのか」 「ちがうよ、あの人が死んだのはかなしいけど。泣くのを我慢している、忍の姿をみているほうがかなしいよ」 「……」 俺はまた、泣きそうになったがたえた。 「ほら……忍はむかしから泣かないね。でも、だいじょうぶ。私が忍が泣けるせかいをつくるから」 ぐしゃぐしゃな顔をして幼馴染みはわらった。 俺はそのかおを一生、わすれることができないだろう。 数日後、幼馴染みが軍隊に志願したときいた。 俺も志願しようかと考えたが、やめておいた。 両親とあいつにとめられるのが、目に見えていたから。 もうすこし、さきでもいいだろう。 俺は、そう結論をだした。 幼馴染みが軍隊にはいってから、1年がたった。 隣国との10年にわたる戦争も、まだまだおわる気配がない。 あいつには才能があったらしい。 軍のなかでも、指折りの精鋭部隊員だそうだ。 「今度、遠征にいくんだ。あっ、これいっちゃだめだった。秘密にしといてね」 あいつはわらった。 軍にはいってもアホは、なおらないようだ。 わらった顔は、いつもとかわらない笑顔だった。
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