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……あいつは……幼馴染みはもういない。
遠征先で回収ヘリに、故障がおこったらしい。
時間かせぎのためにあいつは、敵のなかにつっこんでいった。
あいつはそのくらいのことで、死ぬようなやつではなかったが、問題はヘリの修復に時間がかかって、敵がヘリにちかづいてしまったことだ。
だれかが、おとりになって敵をひきつけておかないと、ヘリが破壊されて全滅してしまう。
そのおとり役をあいつが、ひきうけた。
あいつが遠征にいってから数週間がすぎたころ、軍の人がやってきて、あいつが帰らぬ人となったことをつたえた。
あいつの家族は泣き崩れ、俺の母親も泣いていた。
俺は泣かなかった。
あの日と、おなじように全身にちからを入れたえていた。
「だいじょうぶ。私が忍が泣けるせかいをつくるから」
そういってくれる人はだれも、もういなかった。
顔に冷たいものがあたる。
「……雨か」
俺は、空をみあげた。
あいつが最後にみた、空はどんな空だったのだろう。
俺には、わからない。
俺にわかるのは、ただ、ひとつ。
今日の空も、泣いているということだけだ。
気づいたら、一時間ちかくたっていた。
遠征にいくのがきまってからここには、毎日きている。
俺のまえには、骨も、なにもはいっていない、あいつの墓があった。
思い返せば、兄が死んだ日も、あいつが帰らぬ人となったことをしった日も、雨だったな。
……今日も泣けなかった。
お前以外に……俺が泣けるせかいをつくってくれるやつは、いないな。
お前がかえってこないかぎり俺は、泣けなさそうだ。
雨粒が目から頬をつたって、涙のように地面におちた。
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