122人が本棚に入れています
本棚に追加
「…お前の色使いすっげぇきれいだな」
「えっ」
先輩は出ていくときに私の書いた絵をちらりと覗いてそう言うと、水たまりも気にせずに踏みながら行ってしまった。
綺麗な色…そういった先輩の声がなぜか胸の奥で響いた。
深い赤の人…揺らめく炎の色。
あまり近寄りたくない色。
声が響く胸の奥が苦しくて、ぎゅうっと抑えた。
それから、何度か雨の日に先輩はやってきた。
「雨やどりさせて」
そういってガレージの奥で眠る。
私は雨が止むと彼を起こす。
梅雨の季節。
雨は毎日のように降り続く。
先輩、傘…持ってないの?
って聞いてしまいそうになるくらいここ数日、毎日のようにやってくる。
やってきては同じところで眠って。
でも、今日は違った。
「おい…美雨。ちょっとこっち来いよ」
「…はい」
自分の隣に座れと言っているのか、少し身体をずらしてシートを指さしていた。
最初のコメントを投稿しよう!