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画材を返してもらうにも、学部を知らない。
バイト先で会うかもって思ったけれど、私が入れない日に先輩はいつの間にかバイトを辞めていた。
新しいものを買いなおしてもいいかな。って思ったけれど厳しいお財布事情。
そんなことで悩んでいたある日。
バイト先に先輩がやってきた。
「…これ、返してくれって全然言ってこねぇから、持ってきてやった」
「……」
「なんだよ、なんとか言えよ」
あの日の出来事なんかまるでなかったかのような態度。
ドキドキしているのは、私だけ?
「アリガトウゴザイマス」
「…カタコトだな」
どんな顔していたらいいのかわからない。
なんて話したらいいのかわからない。
画材を受け取って、店の奥に置いて戻ると、先輩は楽しそうにほかのバイトの子と笑って話していた。
出も私が戻ったことに気付くと、ちょいちょいって私に手招きをしてくる。
「な、なんですか…」
「なぁお前さ、俺と一緒に行ってくんない?」
そう言って隣の市にある美術館のチケットを見せてきた。
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