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「完全に赤の他人だと思ってるなら、尚且つ、未だに清香さんに母との関係を知られたくなくて黙っているなら、当時知らぬ振りをして黙って焼香させて、帰って貰えば済む話じゃありませんか。それをわざわざ騒ぎになる危険を冒して、母達を外に連れ出したのは何故ですか?」
「……自分が捨てた、かつての亭主の遺影を見に来た女の顔を見るのが、不愉快極まりなかったからだ」
如何にも面白く無さそうに告げた清人に、聡は疲れた様に溜め息を吐く。
「違うでしょう? 恐らく兄さんは、一度に両親を亡くした清香さんの心境を慮っただけです。自分にはまだ母親が居ると分かったら、清香さんが余計に寂しがると思ったから、発作的に引きずり出したんじゃ無いですか?」
「妄想を垂れ流すのも、いい加減にしろよ?」
「爺さんにも俺に対しても、えげつない報復を仕掛けてきたあなたが、幾ら直接接触して来ないからといっても、心底憎んでる相手を放置するなんて有り得ないと、この間のあれこれで思いましてね」
「はっ! 良い社会勉強になっただろう?」
更に右足に体重をかけてくる清人に、僅かに顔を歪めながら聡が言い募る。
「ええ、お陰様で。それで、清香さんには母を亡くなった事にしてあなたの方から連絡も接触も断っていたのは、再婚した母の立場を推し量ったり、義理の母親の香澄さんに遠慮していたせいですか?」
聡がそう尋ねた次の瞬間、その手から右足を退けた清人が思い切り右足で聡の左肩を蹴りつけた。流石に衝撃を堪えられなかった聡が仰向けに廊下に転がると、その上に馬乗りになった清人が両手で聡のコートの喉元を掴み上げる。
「言いたい事はそれだけか? 誰が、あの女の立場に配慮するって?」
「怒るという行為自体、気にしている証拠だと思いますが?」
「はっ! あんな女、倒れて入院してたそうだが、いっその事そのままくたばってしまえば良かったんだ!!」
そこまで何とか平静さを保っていた聡だったが、ここで流石に怒気を露わにして、清人の腕を掴んで睨み付けた。
「何て事を言うんですか、あなたって人は!? 幾ら気に入らないからって、言って良い事と悪い事があるでしょう!」
「貴様如きに、賢しげに説教される謂れは無い!」
そう吐き捨てた清人に、聡も負けじと清人の手首を引き剥がそうとしながら怒鳴り返す。
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