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「本当に最低な人間ですね、あなたって人は! あなたが纏わりついてる清香さんに、面倒くさがって近付く男が居なかったのも納得ですよ。正直、母の事が無かったら、例え知り合っても深入りしようなんて思いませんでしたね!」
「自分の行いを棚に上げて、何ほざいてやがる!」
「二人とも止めなさいっ!!」
突然至近距離から響いた怒声に、掴み合っていた二人は声のした方に顔を向けて驚愕した。
「え!? 清香、お前どうしてここに!」
「清香さん!? まだ帰る時間じゃ!」
「知らなかったわ……、お兄ちゃんと聡さんが私が居ない隙を狙って、コソコソ密会する間柄だったなんて……」
腕を組んで仁王立ちになり、冷え冷えとした声を降らせて来る清香に、二人は慌てて相手の服から手を離し、立ち上がりつつ弁解した。
「清香! そんな誤解を招く様な発言は!」
「清香さん! コソコソなんてしていないから!」
「そうよね。隣近所の迷惑も顧みず、マンションの通路で殴り合いの兄弟喧嘩をする位ですものね。コソコソなんか、していないわよね?」
周囲を見渡しつつ薄笑いを浮かべて皮肉を口にした清香に、清人が居心地悪そうに問いかけた。
「清香……、お前どこから聞いていた?」
「『完全に赤の他人だと思ってるなら』の辺りからかしら?」
「…………」
途端に黙り込んだ男二人を睥睨しつつ、清香がその場を仕切り始めた。
「さあ、取り敢えず中に入るわよ。お兄ちゃん、ま さ か あれだけ過激なスキンシップをしていた聡さんを、中に入れないなんて言わないわよね?」
「清香、それは」
「聡さんもさっさと入って。ま さ か 私の誘いを袖にして、この場から一人でトンズラしようなんて、考えていないわよね?」
「あの、清香さん」
一応抵抗しようとした男達の言葉に、清香は耳を傾けずに言い付ける。
「寒いのよ。さっさと入る! お兄ちゃん、アールグレイ! 聡さんは黙って座る!」
「……はい」
神妙に頷いた二人を家の中に押し込んだ清香は、廊下の怒声を聞き付けて、何事かと顔を覗かせていた近所の者達に「どうもお騒がせしました~」と愛想を振りまいてから、家の中に入った。しかし玄関に入った途端不機嫌そうな顔付きになり、玄関のポールスタンドにコートを掛けて、真っすぐリビングへと向かう。
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