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その間キッチンで清人が紅茶を淹れ始めた為、聡はソファーで所在無げにしていたが、リビングに入ってきた清香を見て、思わず腰を浮かしかけながら口を開いた。
「清香さん、さっきのあれは、言葉のあやと言うか何と言うか」
「五月蝿い」
「…………」
目を細めて睨み付けてきた清香に弁解の言葉をぶち切られ、聡は神妙に押し黙った。そこでトレーで一人分のカップを運んできた清人が、僅かに顔を引き攣らせながら声をかける。
「清香、アールグレイを淹れ」
「座って」
「……ああ」
ありがとうもなにも言わない事に加えて、清香の冷徹な命令口調に、清人と聡の肝が冷えた。
そして清香の向かい側に清人が座ると、目の前のローテーブルに置かれたティーカップをゆっくりと取り上げた清香は、一口中身を味わってから徐に言い出した。
「そうね……、何から話そうかしら? …………やっぱり私がどうして、こんなに早く帰って来たのか聞きたいでしょう? 聞きたくない? そんな事、言わないわよね?」
「できれば……」
「聞かせて欲しいです……」
疑問形ではあるが、全く笑っていない目を見れば、強制である事は一目瞭然であり、男二人は素直に頷いてみせた。すると清香は険しい目つきのまま、クスクスと笑いだす。
「それがねぇ、聞いてびっくりの話なのよ? ……まあ、ひょっとしたら、二人ともとっくに知っている話かもしれないけど」
「…………」
最後はドスの効いた声で皮肉をぶつけて来た清香に、男二人は最悪の予想を頭の中に浮かべたが、それから清香が順序立てて語った内容がその予想通りの内容だった為、二人は内心で盛大に呻いた。
(何てタイミングの悪い……。しかも総一郎さん、あなたって人は、年を取っても学習能力はつかなかったんですか……)
(最悪だ……。ブラコンの清香さんに、兄さんの悪口は禁句以外の何物でもないのに。それでなし崩しにバレるなんて……)
本気で頭を抱えたくなった二人に、十分程時間をかけて紅茶を飲み干しながら柏木邸でのあらましを一通り語り終えた清香が、不気味な微笑みを浮かべて声をかけた。
「それでね? 聡さんに昨日諭されたお陰で、理性をぶっ飛ばしてお祖父さん達をその場で半殺しにしたりせずに帰って来れたの。聡さんのおかげよ?」
「い、いや、その……」
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