115人が本棚に入れています
本棚に追加
「全く、こんな時に誰が……、え? 柏木さん!?」
モニターを覗き込んだ聡は、そこに映し出されている人物を見て仰天し、慌てて受話器を取り上げた。
「お待たせしました。今開けますので」
「遅い! ……って、その声。まさか聡君?」
マイクを通して、下のエントランスから戸惑いの声を伝えて来た真澄に、聡が促した。
「話は後です。取り敢えず、上がって下さい」
「分かったわ」
そして浩一を引き連れて、上がってきた真澄を玄関で出迎えた聡は、予想に違わずそこで問い質される事となった。
「一体、どういう事? あなたがここに居るなんて。第一、清香ちゃんは? ちゃんと帰宅しているわよね?」
「はい、彼女から柏木邸でのあらましは聞きました」
「それで君はどうしてここに?」
不審げな浩一の問い掛けに、聡が思わず顔を引き攣らせる。
「実は……、兄と色々突っ込んだ話をしている所に、清香さんが帰宅しまして、俺達の関係がバレて、少し前に洗いざらい吐かされました。その結果、清香さんは自室に閉じ籠もって、返事もしてくれません」
半ば自棄になって聡が簡潔に語った内容に、真澄と浩一が深々と溜息を吐き出す。
「……何て間の悪い」
「二人揃って、大馬鹿野郎ね」
そんな事を言い合いながらリビングに足を踏み入れた真澄は、ソファーで彫像と化している清人を指差しながら、聡に小声で尋ねた。
「それで? あのすっかり燃え尽きているのは何なの?」
「それが……、清香さんに『最低』とか『大嫌い』とか罵倒されたのが、相当ショックだったみたいで……」
清人からも真澄からも視線を外しつつ、聡が状況を説明すると、柏木姉弟が清人に憐れむ視線を向けた。
「絶対、清香ちゃんから言われた事はないでしょうしね」
「ある程度予想はしていたが、これほどとは……。ちょっと清香ちゃんの様子を見て来るよ」
そう言って浩一は清香の部屋に向かい、真澄は一人で暗い空気を漂わせている清人に歩み寄った。
「お邪魔するわ」
最初のコメントを投稿しよう!