ただ、赤く濁る

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 すでに煙草を何度も吹かし、 砂利道を蹴りながら速足で歩く、 野副義承。 四十三にもなって、 あからさまに子供じみた不貞腐った素振り。 たかが一年足らずで、 コンビと呼ぶには恐れ多く、 まだまだ力及ばずながら、 ようやく師弟関係を築きつつある後輩の畠山瑞希には、 後ろ姿から野副の全てが お見通しだ。  荒々しく車に乗り込むや、 決まって助手席でリクライニングを倒す野副。 隣の運転席が、 畠山の特等席。 「私たちは兎も角、 所轄の事件に一係が出動する理由でもあったんですかね」 彼女にとって、 今さら野副の顔色に配慮は不要だが、 短時間で蒸し風呂と化した 車内で、 気を紛らわせる他愛もない、 ほんの些細な問い掛け。 「担当じゃないヤマに興味は無ぇよ。 それにしても、 暑いな!」 当然と言えば当然の返しに、 畠山は生温い空調の風で、 その場しのぎの頭を冷やす。
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