ただ、赤く濁る

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背後から近付く気だるそうな悪態が、 説得の姿勢に平然と水を差す。 「野副さん。 不謹慎ですよ」 「そもそも、 何で俺たちが来なきゃならねぇんだよ。 別件で、 たまたま近くを 回ってただけで、 こんなヤマは所轄に任せれば良いだろうが」 ただだらしなく、 ワイシャツのボタンを上二つまで開け、 度が過ぎた 不機嫌を垂れ流す、 根っから悪相の男。 薄い切れ込みを入れたキツネ目で、 嘔吐いたまま背を屈める責任者を横目に見る。 「人の噂って言うのはさぁ、 目に見えず性質の悪いウイルスみたいなもんだ。 どんなに大元の原因菌を取り払っても、 一度感染した身体は、 二度と元には 戻らない」
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