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『サイトウさん。お願いします』 「……分かった。引き受けよう」 サイトウさんも着ぐるみに引けを取らない無表情ではあるが、表情筋が凝り固まっているわけでは、決してない。 サイトウさんは不思議なくらい、人が良い人だと思う。 お願いをすれば、断れないだろうという算段があった。 『ありがとうございます!』 わかってはいるものの、お願いが許容されると、たまらなくうれしい。 ワーイと自分のことのようにいっしょに喜んでくれるトノサマ。 トノサマも決して悪い感じはしないが、やはり、信用しきれはしない。 彼はヒトであって、ヒトでないのだ。 トノサマといっしょに盛り上がっていると、サイトウさんは容赦なくトノサマの背中を蹴飛ばした。 トノサマは着ぐるみ特有のずんぐりした体型のため、一度転がるとなかなか起き上がれない。
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