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一悶着あったものの、科学部八人はぞろぞろと井戸を目指して歩き出した。しかしどうにもまとまりがない。先頭を歩くのはなぜか亜塔ではなく桜太だし、迅と優我はのんびりと集団を離れた後ろを歩いている。そして、千晴の目の前には妙な動きをする気になる人物がいる。
「あの、奈良井先輩。何してるんですか?」
気になってはダメだと思いつつも我慢の限界だった千晴は訊いた。芳樹は中腰のまま歩を進めていたのだ。しかもいつの間にか手には空の小さな水槽を手にしている。
「何って、カエル探しだよ。井戸があるってことは水があるってことだろ?この辺りのカエルはどういう種類がいるのか確認したい」
中腰のまま芳樹は喜々として答える。彼の目にはもう井戸はなく、カエルしか映っていない。しかも捕まえたくてうずうずしているのだ。
「――そうですか」
予想どおりの答えに千晴はもう何も言えなかった。止めてくれと頼んだところで馬耳東風なので諦めるしかない。科学部のメンバーは調べごとをしている時に邪魔されるのを何よりも嫌う。たとえ先生であっても恨みは一日中消えないほどだ。
歩いているところは千晴が森っぽいと表現しただけあって木が多く、さらに雑草が生い茂っている。その森の手前にぽつんと白色の塗装が剥げた百葉箱があるのだから、これだけでも十分不気味だった。
しかし科学信奉者の彼らにそんな不気味さが通じるはずもなく、百葉箱はただの風化現象で朽ちただけと判断されてしまうのだった。怪談話が盛り上がる要素は何もない。これでは本当に井戸の調査だ。
「井戸を作るなら、どうしてこの辺りを整備しなかったんでしょうね?木が伐採された様子もないですし。それとも井戸に続く道だけは整備していたものの、使われなくなって解らなくなっただけでしょうか?」
大真面目に考察する楓翔の手には地形図が握られている。密かに某番組の真似をしているのだ。亜塔のように露骨な真似はしない。
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