第1章

3/7
前へ
/7ページ
次へ
「農業用水の可能性はないしな。いくら森の向こう側が田んぼとはいえ、道路があったりと離れすぎている。学校の水道に使っているわけないしな」  その亜塔はちゃっかり地形図を覗き込みながら考察に加わる。亜塔は頭の中に周辺の状況を思い浮かべた。  この辺りは新興住宅地で田んぼと都会が隣り合わせになっているのだ。この学校は境目に建っているようなもので、森を抜けた向こう側は田んぼで反対側のグラウンドがある側は都会そのものだ。だから芳樹がアマガエルを持ったままファストフード店に現れるという現象が起こる。 「そうですね。この辺りの水道水は地下水を利用したものではないですし、謎ですね」  普段は敬遠しているものの亜塔が話に加わってくれて楽しい楓翔はこの状況を堪能していた。たしかに部活をしているという感じがする。 「あっ、あれじゃないか」  先頭を黙々と歩いていた桜太が大声を上げる。 「おっ」 「確かに井戸っぽい」  遅れていた迅と優我も井戸を見つけて声を上げる。  目の前に現れたのはコンクリート製の円筒で、大きさは直径1メートルほど。高さは50センチといったところだ。上にはトタンで蓋がしてあり、重石が置かれていた。 「なっ、あっただろ」  発見者である亜塔は胸を張った。今まで誰にも信じてもらえなかったので喜びもひとしおなのだ。 「あっ。これ、ひょっとして荷物置きにしていたヤツか。暗いから気づかなかったな」  夜にここに侵入していた莉音がそんなことを言い出す。これでは今まで無視されていた亜塔が報われない。  しかも気づかなかったとは驚きだ。どうやって夜の森を進んでいたのだろう。やはり科学部に属しているだけのことはある。目的の天体観測以外は眼中になかったのだ。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加